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規定打席に足りない場合でも首位打者は獲得できる?例外規定の仕組みを解説

プロ野球において、打撃のタイトルの中でも特に名誉とされるのが首位打者です。このタイトルを獲得するためには、原則として「規定打席」に到達していることが必須条件とされています。規定打席は、レギュラーシーズンを通じてチームの主軸として活躍した証ともいえる重要な数字です。

しかし、もしシーズン終盤に惜しくも規定打席に届かなかった選手が、リーグトップの打率を残していた場合、その打者はどうなるのでしょうか。実は、こうした状況に対応するため、「例外規定」という制度が存在し、規定打席未達でも首位打者となる可能性があるのです。本記事では、この例外規定(通称「認定首位打者」制度)の仕組みと、実際の適用例について詳しく解説します。

規定打席に足りない選手が首位打者となる「例外規定」とは

首位打者や最高出塁率、最高長打率といった「率」で争われる打撃タイトルは、規定打席を満たした選手が対象となるのが原則です。日本野球機構(NPB)やメジャーリーグ(MLB)における規定打席数は、所属チームの試合総数の3.1倍(小数点以下四捨五入)以上と定められています。

この規定打席数にわずかに届かない打者に対し、タイトル獲得の可能性を残すのが「例外規定」です。公認野球規則9.22に基づき、以下のような仕組みで打率が再計算されます。

  1. 不足打席数を凡打として加算する:規定打席に満たない分の打席数をすべて「打数」として加算します。これは、不足した打席でヒットを打てずにすべて凡退(凡打)したと見なす計算です。
  2. 打率を再計算し、トップと比較する:不足分を加えた打数で打率を再計算し、その数字が、規定打席に到達した選手の中で最も高い打率を上回っていれば、その選手が首位打者として認定されます。

もし例外規定が適用され首位打者となった場合でも、公式記録として残るのは、不足打席数を加える前の、元の高い打率であるとされています。

なお、この例外規定は、首位打者だけでなく、最高長打率(1984年から適用)や最高出塁率(2008年から適用)についても設けられています。

メジャーリーグで生まれた「グウィン・ルール」

規定打席未達ながら例外規定によって首位打者が認定された事例は、メジャーリーグ(MLB)で誕生しました。この制度は、その成功例から「トニー・グウィン・ルール」とも呼ばれています。

1996年、サンディエゴ・パドレスのトニー・グウィン選手は、規定打席(502打席)まであと4打席足りませんでしたが、打率.353という高打率を記録していました。一方、規定打席に到達した打者の中でトップの打率だったのは、エリス・バークス選手の.344でした。

グウィン選手が不足分の4打席をすべて凡打(アウト)と仮定して打率を再計算すると、打率.349(159安打 / 455打数)となります。この.349は、規定到達者トップのバークス選手の.344を上回っていたため、グウィン選手が首位打者に認定されました。メジャーリーグ史上、この規定が適用されたのは、グウィン選手ただ一人であるようです。

また、2012年には、メルキー・カブレラ選手が規定打席に1打席足りなかったものの、例外規定を適用すれば規定到達者トップの打率を上回るはずでした。しかし、カブレラ選手はドーピングによる出場停止処分を受けていたために規定打席に届いておらず、本人が首位打者の権利を放棄したため、規定到達者1位のバスター・ポージー選手がタイトルを獲得したという経緯があります。

日本のプロ野球(NPB)での適用状況

この例外規定は、日本のプロ野球の一軍(セントラル・リーグ、パシフィック・リーグ)では、過去に一度も適用された例がありません。

しかし、二軍(イースタン・リーグ、ウエスタン・リーグ)では過去に適用例が多数あり、例えば、2023年にはウエスタン・リーグでオリックスの池田陵真選手、イースタン・リーグで楽天の渡邊佳明選手がこの規定により首位打者に認定されています。

首位打者を逃した惜しい例

例外規定が存在するとはいえ、シーズン途中の怪我や不調で規定打席に届かない場合、実際にタイトル獲得に至るのは非常に難しい傾向があります。

最近では、オリックスの西川龍馬選手が、シーズン終盤の自打球による骨折で規定打席(443)に到達することが絶望的となった事例が報じられました。離脱時、西川選手は打率3割1分0厘でリーグトップを走っており、規定打席まであと31打席に迫っていました。

この状況で例外規定を適用すると、不足分の31打数を凡打として加えるため、西川選手の打率は2割8分7厘まで下がってしまいます。この数字は、当時2位と3位の打率を下回るため、結果的に西川選手の首位打者の可能性はほぼ絶たれたと見られています。

規定打席に到達することなく高打率を残した打者は、しばしば「隠れ首位打者」とも呼ばれます。2017年のパ・リーグでは、日本ハムの近藤健介選手が55試合で打率.409という驚異的な成績を残しましたが、腰のヘルニアにより長期離脱を余儀なくされ、規定打席に届かず「夢の4割打者」としての記録は残りませんでした。

規定打席に到達すること自体が、打者が一年間怪我なくレギュラーとして戦い抜いたことの証明であり、いかに高打率であっても、タイトル獲得にはその大前提をクリアする必要があるといえるでしょう。

まとめ

規定打席に足りない打者でも首位打者のタイトルを獲得できるかどうかという疑問に対しては、「例外規定(認定首位打者制度)があり、不足分を凡打と仮定して計算しても規定到達者のトップ打率を上回れば獲得できる」というのが答えになります。

この制度は、メジャーリーグのトニー・グウィン選手によって適用された例が有名ですが、日本のプロ野球の一軍では、まだこの規定が適用された事例はありません。

打撃タイトルは、その年の打者としての実力と、シーズンを通してレギュラーを守り続けた健康と運、両方が組み合わさって初めて手に入る栄誉といえるでしょう。シーズン終盤、規定打席を巡る争いや、例外規定の適用が議論される瞬間は、野球ファンにとってタイトル争いの奥深さを感じさせてくれるものかもしれません。

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